帰国と震災

 東日本大震災で被害に遭われた皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。

 さっき自宅に帰りつきました。

 リスボンを出たのが11日朝8時(ポルトガル時間)だったので、日本時間だと11日の午後5時。すでに日本では地震が発生していたはずだが、早朝5時に起きて、そのままリスボンの空港へ向かったので、地震のことは何も知らなかった。

 地震のことを最初に聞いたのは、トランジットで立ち寄ったアムステルダムスキポール空港だった。ツーリストインフォメーションでロッカーの場所を聞くと、「あなたは日本人? 日本は津波で大変なことになってるのをご存知ですか?」といわれ、インターネットでその記事を少しだけ見せてもらった。だがヘッドラインと数行の要約だったので、宮城を中心に津波があったということだけしかわからなかった。

 それから、誰かにものを聞くたびに、お前は日本人か、日本の津波はひどい、お気の毒に、と次々に声をかけられるようになった。テレビではずっと地震津波の映像が流され続けた。僕もそれを見て、ただごとではないことが初めてわかった。ニュース系の番組では一日中そればかりで、津波が海辺の町を呑み込む様子や、何十台もの車が押し流される様子、町の中に漁船が流れこんでくる様子など、まるで映画の『日本沈没』のような風景で、あまりのことに本当なのかどうかピンとこなかったほどだ。

 ネットでニュースを見ると、行方不明1000人とか、帰宅難民が駅に続々とか、一時停電とか、さまざまなことが並んでいて、次の日に帰国便に乗る身としては、本当に帰れるのかどうか不安になった。そもそも成田空港が運営されているのかもわからない。それで、ホテルの人に航空会社に電話してもらったら、搭乗する便は欠航にはなっていなかった。ということは空港は閉鎖されていないのだ。成田空港のサイトでは欠航便はあったが、ちゃんと到着している便があるのを確認した。

 いちばん心配なのは成田から自宅までの交通機関だが、数人の友人に急いでメールを打って、無事であるのか、成田から自宅へ帰るのは可能かどうか尋ねてみると、全員が無事で、成田からの交通機関はほとんど問題ないだろうという返事が圧倒的だった。それでとりあえず安心した。

 テレビのニュースは、もっとも劇的な場面しか放送しない。津波に町が呑み込まれたり、車や船が流されたりするシーンのように、劇的でテレビ映えのする映像を繰り返し繰り返し放送する。それはもちろん事実であるのだが、まるで日本がすべて壊滅状態に陥ったかのような印象をうける。日本人の私でさえそう思うのだから、日本の地理を知らない一般的な外国人なら、ほとんどそのような印象をうけるのではないだろうか。

 海外のニュースだから、ある意味でそれは仕方のないことなのだが、私のようにこれから帰国する人間にとっては、そういうニュース映像はほとんど役には立たないのであり、私が友人たちにメールで聞いたことが、もっとも信頼がおけて、リアリティのあるニュースとなった。今回の地震ではツイッターもそのような役割を果たしていると聞いたが、中東の変革といい、本当にメディアの役割が変わってきているのだなと思う。

 今朝、成田に降り立つと、京成スカイライナー、山手線、西武池袋線通常運行だった。それらを乗り継いで自宅まで帰り着いたのだが、東京の風景が何一つ変わっていないように見えたのが、かえって印象的だった。