腰痛を抱えつつ『腰痛探検家』を読む

 また当欄の更新が遅れてしまい申し訳ありません。前回は多忙が理由だったが、今回は腰痛が原因である。先般、高野秀行さんが新刊『腰痛探検家』(集英社文庫)を送ってくれた。すぐ読みたかったが、妻に先取りされたためにあとまわしになっていたら、なんと私自身に数カ月ぶりの腰痛が襲いかかってきた。それで腰痛を抱えつつ『腰痛探検家』を読むという、どんぴしゃりの状況になってしまった。

 しかし、腰痛ネタだけで一冊の本が書けるものなのか。失礼ながら、腰痛だけのネタじゃたいして期待できないんじゃないかと疑っていた。世間では「腰痛談義」がさかんで、中年が集まって腰痛の話になると盛り上がり、腰痛自慢が始まったりする。どこそこの整体師は名人だとか、こういう体操が腰にいいとか、そういった話である。

 そういう腰痛談義で終わったら、世間話でも十分なので、いったいどういう話になるのかと不安だったが、読み終わった今は、そのような疑いを恥じている。この物語は、究極の腰痛談義というか、腰痛と果敢に戦った人間の、お笑いの記録なのだった。目次を見ると、「カリスマ洞窟の冒険」だの、「会社再建療法」だの、「密林の古代文明」だの、とても腰痛の本とは思えない。

 高野さんは、西洋医学から整体、東洋医学など、さまざまな治療法に挑み、果ては(というか、もののはずみで)超能力さえ試みる。私自身が腰痛を抱える身ではあるが、高野さんほど腰を据えて腰痛と闘ったことはないし、そもそもこれほど多くの治療方法があることさえ知らなかった。これがさまざまなスポーツ競技に挑戦しようというのなら疲れる程度ですむが、各種の治療に挑むとなると、腰は痛いし、金もかかるし、そもそも治らないから次々に新しい治療を試さなければならないのであって、不幸なことこの上ない。それを読者に笑ってもらおうというライター根性に感心する。

 おそらく腰痛体験者なら、そうそうと頷けるエピソードがいくつも出てくる。例えば、腰痛体験者に聞くと、多くの人が「ぴたりと腰痛を治す名人整体師」を知っていて、勧めてくれるというのは、私も同じ体験をしたことがある。その名人の治療が必ずしもすべての人に合うわけではないのもまた私の体験するところである。個人的には私は整体は苦手だ。

 万策尽き果てた高野さんに、最後に突きつけられたのは、なんと…………、それを書くと、この本をこれから読む方のネタばらしになるので書けないが、それを読んだときに私は信じられない気分だった。もし、あなたが腰痛をお抱えなら、この最後の医師の言葉をどう捕らえるだろうか。そのことを詳しく書いたのが、この本の中で紹介されている夏樹静子の『腰痛放浪記〜椅子がこわい』(新潮文庫)だそうだ。これも読みたくなってきた。