ダライ・ラマはオカルト指導者?

 この前、謎の量子力学の本『パラレルワールド』について触れたが、実はあの本自体もかなり売れているようで、私の持っている本の奥付も9刷だった。読者の皆さん、意味がわかってます?(笑) この本のあとがきに、本書にはタイムトラベルだのパラレルワールドだのオカルト紛いのことが書かれているが、これが最先端の現代物理学なのだというようなことが書かれてあった(ようやく最後まで読み終えたのだ)。

 まさにオカルトのような話ばかりだが、私自身はオカルトはもちろん信じていないし、オカルトどころか、血液占いも星座占いもおみくじも水晶パワーも信じない。宗教も信じていない。旅先で宗教を聞かれて無宗教だというといろいろ問題があるので、仏壇には手を合わせるし、墓参りもするので、とりあえず仏教徒と答えているが、だからといって49日間は死んでも霊がこの世にいるというようなことは信じていない。

 で、話は飛ぶが、私は毎日仕事場で夕食を食べながら、ネットをあちこち眺めている。そのなかに最近、あの大槻義彦教授のブログを発見した。大槻義彦さんのことは皆さんもご存じだと思うが、反オカルトを標榜する学者である。もともとは物理学者だったが(今でもそうかもしれない)、近頃はテレビに出てオカルト信者と戦っている。とんちんかんな科学論をぶって顰蹙をかうこともあるそうだが、ブログを読むと、読者の質問にいちいち答えるあたりは誠意のある人なのだなと思う。

大槻義彦のページ」
http://ohtsuki-yoshihiko.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-3444.html

 大槻教授の主張は極めて明快で、「宗教は世界観、物質観、生命観、いずれも容認できない哲学であり、2000年、3000年前の、きわめて古い、幼稚な思想です」と切って捨てる。すごいですね(笑)。私は宗教を「容認できない哲学」であるといえるほど宗教を学んだことはないので、宗教が「幼稚な思想」かどうかは大槻教授のようにいうことはできない。だが、やはり信じることはできないという点では同じである。

 だが、大槻教授はそのあとで、こう書いている。
────(中国が)チベットダライラマを弾圧したのも肯定できます。一体、ダライラマ亡命政府とは何でしょうか。『チベット民主化勢力』だって? ダライラマは民衆から選ばれた民主勢力ではありません。実は『高僧』の占いによって、非民主的に選ばれた子供から成長したのです。まさに、宗教どころかオカルト指導者なのです。

 「チベットダライラマを弾圧したのも肯定できます」という部分は、まさか「チベットダライラマを弾圧したのを肯定する」という意味ではなく、「チベットダライラマを弾圧した」という意味だと思うが、前者だったら論外だ。

 ダライ・ラマはおっしゃる通り高僧の予言によって見いだされる。民主的な選挙で選ばれた人ではもちろんないどころか、この方は観音菩薩の化身なのだから、そんな方が選挙で選ばれるわけがない。「宗教どころかオカルト指導者なのです」というか、一般的にいう宗教指導者だが、チベットの場合は宗教指導者が民族的な指導者となっているわけだ。形は少し違うけれど、イランだってそれは同じだ。

 ダライ・ラマが選挙によって選ばれていないから民主化勢力ではないというなら、中国だって共産党独裁で一般的な選挙で指導者が選ばれているわけではないから(共産党員のみの選挙で事実上の指導者である党中央軍事委員会主席が選出される)、これもまた民主的とはいえない。中国がチベットの文化を抑圧し、チベット民族を弾圧するから、チベット人民主化勢力のほうが説得力を持っているのだ。

 もしチベット人の方が強力で、ダライ・ラマが中国人民を弾圧したら、たとえ中国が共産党独裁で選挙なんかしなくたって、中国民主化勢力として同情されたことだろう。「ダライラマは民衆から選ばれた民主勢力ではありません」が、選挙なんかで選ばれなくたって大多数の民衆から敬慕されていることや、そのような社会があるということを大槻教授はご存じないのだろう。もしかしたら、大槻教授は本当に、中国がオカルトを信じているチベットを弾圧するのは当然だと考えているのだろうか。

 大槻教授は宗教について次のようにも書いている。
────私があらゆる宗教を好まないとしても、各個人が宗教を信じ、宗教を頼り、それによって生きる力を得るとするなら、それを否定するものではありません。

 だとすれば、チベット人の多くが、そのような人々であり、チベット仏教ダライ・ラマを信じ、頼り、生きる力を得ているのだから、ダライ・ラマをオカルト指導者と断じるのもいかがなものかと思いますけどね。