椎名誠さんの連載が終了

 旅行人山荘のことが「週刊文春」に載っていると兄からメールをもらったので、買ってきてみた。といっても、それはもう先々週のことで11月4日号だから、すでに書店には並んでいない。山荘の取材をしてくれたのは、山崎まゆみさんという人だが、温泉取材で有名な方だからご存じの人も多いだろう。山荘が「パワースポット温泉」として見開きのカラー写真で紹介された(この記事は単行本にもなっていて『恋に効く パワースポット温泉』文藝春秋社として発売されている)。

 それで、この週刊文春に掲載されていた椎名誠さんの連載「風まかせ赤マント」を読んだら(なんと連載1008回!)、『本の雑誌』の編集長を正式に降りるとあった。「もう十五年ぐらい前から実質的な編集長ではなく名前だけ貸していたというのが実情」だったのが、いよいよ『本の雑誌』から椎名さんの名前が消えるのだなと思うと感慨深いものがあった(うちも休刊する予定なので、ますますそういう感じがしてくるのですね)。

 そして、今日届いた『本の雑誌』を見ると、なんとこれまでずっと続いてきた椎名さんの連載「今月のお話」も終了しちゃったんである。ということは、編集長の名前が消えるだけでなく、『本の雑誌』から椎名さんの文章が消えてしまうということではないか。北上次郎目黒考二)さんの「新刊めったくたガイド」はまだ残るようだが、名実ともに椎名さんが『本の雑誌』から撤退するというのは、ちょっとつらい。

 と、ここまで書いて、なんだおまえは雑誌そのものを休刊するんだから、椎名さんよりもっとひどいんじゃないのという内なる声が聞こえてきた。ほんとそうだよな。読者の立場に立つと、この切なさが理解できる。その反面、続ける方の大変さもまた理解できる。私はたぶん椎名さんより10歳ほど若いにもかかわらず、早々に撤退してしまうのだから、余計ひどい。そもそも仕事量が比較にならないほど私のほうが少ない上に、短いときてる。

 ま、私のことはともかく、その「今月のお話」のなかで、こんな話が出てくる。
────(『もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵』)がやがて単行本として本の雑誌社から出て、今の出版不況から考えると信じられないくらいのバカ売れを続け、増刷増刷の連続だった。そうしてなんと当社はへたすると「黒字倒産」しそうになったのである。

 おお、やっぱりあの本は「黒字倒産」しそうになるほど売れたのか。黒字で倒産しそうになるなんてことは経験がないので耳学問でしかないが、推測するに、次から次に追加注文が来て、無我夢中で注文に対応して増刷するうちに、売掛金がまだ入ってこないのに印刷屋や紙屋から巨額な請求書がきてしまったのではないか。多少の額なら支払えるが、倒産しそうなほどということはよほどたくさん増刷したってことだ。

 このあとのことは書かれていないが、なんとか倒産を免れて、様々な支払いのメドがついた頃には、次には税金がどーんと襲いかかったことだろう。あの頃の本の雑誌社は、社員もほとんどいない、事務所も小さな格安物件だったから、必要経費なんて知れている。以前、何かで目黒さんが、自分たちは様々なものを節約して、なるべくお金をかけないようにがんばってきたのに、そうすればするほど税金に持っていかれるということを知った、というようなことを書いていたが、おそらくはこの時代のことだったのだろうと思う。

 私は幸か不幸か、黒字倒産とかベストセラー倒産とかになりそうになったことはなく、普通の倒産になりそうになったことは一度ある。いや、二度だったかな。二度目のときは、そのうえ泥棒に入られて、現金をごっそり持って行かれたときはほんとにショックだったねえ。この話は、また今度。