コーカサスの旅 アゼルバイジャン

 私は今、アゼルバイジャン西部の町シェキにいる。バクーからアゼルバイジャンに入国し、山間部の村をまわって、ここまでやってきた。シェキはアゼルバイジャンでは大きな街だが、ここがどこにあるかを知っている人はあまり多くはないだろう。そもそもアゼルバイジャンという国の位置さえあまり知られているとは言いがたい。

 ガイドブックの編纂者でありながら、私自身もアゼルバイジャンのことをたいして知らなかったのだが、来てみて驚いたのは物価の高さである。そういえば以前、執筆者の前原さんから、けっこう高いですよといわれたような気がするが、やってくるまですっかり忘れていた。特に首都バクーの宿は異常に高い。安宿で40ユーロもするのだ。

 アゼルバイジャンの通貨はマナトという。現在マナトのレートは1ドル=80マナトなので、1マナトはおよそ106円ほどだ。ドルに対してもユーロに対しても強く、このところドルが安くなっているので、交換レートは悪くなる一方である。そのマナトの使い出といえば、チャイが0.5マナトであることはまだいいとしても、地方の安宿でも20マナトだし、食事だって4〜5マナトはかかる。もちろん日本と比べれば高いとはいえないが、日本のような設備や品質だったら文句はないが、アゼルバイジャンの生活は、バクーを除けばいわゆるアジアの発展途上国とほとんど大差ない。

 こちらではマルシュルートカと呼ばれる乗合のミニバスが走っていたり、ボロボロのロシア車ラダが走っていたり、あるいは馬やロバに乗っている人もおり、現代的な資本主義社会というわけではないのだ。マナトの価値が高すぎる感が否めない。

 なぜマナトがこんなに高いのかといえば、ドルやユーロが安くなっていることと、カスピ海原油が採掘されるからだ。アゼルバイジャンカスピ海原油は近年ますます増産されていて、そのうえ原油価格も大幅に値上がったので、この国の石油関係業者はかなり儲かっているのである。それで通貨のマナトも相対的に強くなっている。

 だからといって、石油関係の利益がどしどし国民に分配されているわけではないようで、みんなが金持ちになっているという感じは全然しない。バクーでは高級ブランド品の店が軒を連ね、メルセデスやレクサスの新車がばんばん走り回っているのに、ちょっと地方に出ると、走っているのはほとんどがロシア製の古いラダばかりである。マルシュルートカのような乗合バスのシステムがあるのは、公共バスが便利に発達していないのと、みんなが自家用車を持っていないからだろうが、おかしいのは、そのマルシュルートカに使用されている車がけっこう新車だったりすることだ。新しい韓国製のマイクロバスがばんばん走っている。私はこれまでいろいろな国でこういった乗合バスに乗ったことがあるが、乗合バスがこんなに新車が多いのは初めての経験である。これも強いマナトのなせる技であろう。

 明日でアゼルバイジャンを抜け、グルジアへ入る。今のところ腰痛はぎりぎりセーフといったところ。しかし、油断はならない。