ツバルは沈まない

 もんでん奈津代さんという方が、『子連れ 南の島暮らし』(人文書院)という本を出した。この人は、南太平洋のツバルに住んでいて、そこでの生活を描いたものだ。その著者もんでんさんは、ツバルについてよく「ツバルって沈んじゃうんでしょ?」という質問を受けるらしい。地球温暖化、海面上昇の象徴として、しょっちゅうテレビでツバルが水没すると報道されているからだ。

 だが、そんなことはまったく事実無根であるという。詳細はここをみよと、太平洋諸島研究者である小林泉氏の「ツバルの真実」記事という記事を紹介してくれた。
http://monden.daa.jp/01tuvalu/guest03a.html

 一読すると、これはまああきれるばかりの話である。
 小林氏曰く、────「ツバルって、もうすぐ沈んで無くなっちゃうんでしょ」といった質問を頻繁に受ける。それも、いつものステレオタイプなマスコミ報道のおかげだ。しかし私が、「ツバル問題と海面上昇とは当面無関係です」と答えると、決まって怪訝な顔をされる。さらに「あの海域では、目立った海面上昇は起きていないので、マスコミ報道は誤りだ」と言えば、もうほとんどアホか変人扱いされてしまうのである。

 それでは、何故ツバルが水没している映像が流れるのか。上記のサイトをお読みいただけばわかるが、ここでは私が要約させていただこう。

 まずツバルの国家としての中枢がすべて集中しているのが、最大幅700メートル、面積は88ヘクタールのフォンガファレ島である。19世紀末のイギリス植民地時代のこの島は、その大半がマングロープ林で覆われた湿地で、満潮時にはわずかな陸地にあいた無数の穴から海水が湧き出ていた。太平洋戦争で日本軍がキリバスまで進軍してくると、これに対抗してアメリカ軍が、滑走路を建設するために、こういう湿地帯を埋め立ててしまう。

 現在、島を歩くと、いたるところに池のような水たまりや窪地があるが、これらはアメリカ軍が湿地を埋め立てるために土砂を採掘したあとの穴なのだ。大潮のときはここからも水が吹き出てくる。だから大潮になればフォンガファレ島が水浸しになってしまうのである。

 しかも、1978年にツバルが国家として独立して以来、島の人口は膨張を続けている。19世紀末この島の環礁地帯に住んでいた人は200人、独立前でも871人だったのが、現在では5300人に増加した。人が増えると、これまで居住地としては不適だった海岸ぎりぎりの砂地や水が湧き出る穴の上にも家を建てるようになり、独立国家に必要な議会、行政施設、警察、消防施設、学校、病院などが続々と建設され、小さな島には重量オーバーになってしまったのである。

 それでは何故、そのような原因にもかかわらず、ツバルは地球温暖化の象徴になったのか。それは、「ヨハネスブルグ地球サミット」が開催された2002年に、時のツバル首相コロア・タラケが、温暖化被害による「環境難民」の認定を国連に求め、アメリカやオーストラリアを相手に、国際司法裁判所に提訴する意志を表明したことに端を発している。すると、世界のマスコミや環境問題の運動家たちが、こぞってこの動きに関心を示したのだ。結局、温暖化と島の浸水被害との因果関係を科学的に立証できないとして訴訟には至らず、国連での難民認定もならなかったが、ツバルが世界中の注目を集めたという点で目的は十分に果たし、ツバルは地球温暖化の象徴となったのである。

 まったくあきれるほかない話だ。環境問題の運動家なんてのは、こうやって問題をでっちあげているのか。それをまた、まったく検証もしないで、わーわー騒ぎ立てるしかマスコミは能がないのか。ツバルの本当の問題は、海面上昇などではなく、現代が生み出すゴミの山であるという。人が数千人に増えただけで重量オーバーになるような小さな島に、プラスチックやアルミ缶などのゴミを処理する力はない。今後、こういった現代的な問題でツバルは重大な危機を迎えることになるだろうと小林氏は語っている。環境問題の運動家たちは、ありもしない問題を騒ぎ立てていないで、こういった問題をなんとかする気はないのだろうか?