食料自給率100%の嘘

 今日は珍しく日本の政治について。衆議院選挙で大勝した民主党は、結局のところ右往左往するばかりで、どんどん支持率を落とし、次の参議院選挙では惨敗するんじゃないかといわれている。その元凶は「独裁」小沢であるとマスコミは言い立てているけど、一方で鳩山首相指導力がないと批判される。結果がうまくないと、指導力が弱くても強くても批判される運命にあるのだ。

 もっともマスコミの用いる言葉の軽さも問題だ。「独裁」などというが、憲法をねじ曲げて終身大統領に就任し、反対派を武力で鎮圧するってのがいわゆる独裁政治であって、小沢幹事長の「独裁」は、選挙で政権を握った与党の一幹事長であるにすぎず、それは選挙民から支持されたものではないか。次の選挙で負けたら、すぐにその座を引きずり下ろされる運命にある。それを普通は独裁などとは言わない。

 だが、その小沢幹事長の掲げた目標「食料自給率100%」は実に馬鹿げている。「食料安全保障」のために食料自給率は100%にすべきだと民主党はいい、何故かマスコミもその尻馬に乗っているのが不思議でしょうがない。食料自給率を100%にするなんてできるわけがないではないか。そんなことは、小中学校で教わる知識だけで不可能だとわかる。

 諸外国からの食料輸入が途絶えたら国民が餓死するから自給率を100%にするという、あまりにも素朴で愚かな話に、マスコミが同調するとはどういういことだろうか。小学生でも知っている話からすると、農業は天候に左右され、年によって豊作もあれば不作もある。何年か前にそういう不作の年があった。そのとき日本はアジア諸国からコメを緊急輸入した。今後も絶対にそういうことはある。不作が何年続くのか誰にもわからないが、不作の年があることだけは間違いない。そういうときには輸入するというのなら、はじめから食料安全保障のために、輸入先を確保しておく方がずっと安全であるのは明白だ。

 次に中学校で教わることだが、日本は原料を産出しない加工貿易国である。輸出が日本の生命線だ。常識的に考えれば、食料を輸入しないで、食料輸出国にどうやって日本の工業製品を売りつけるのか。例えば日本はアメリカやオーストラリアから食料を輸入しているが、沖縄の米軍基地の移転問題でうろたえている民主党政権が、アメリカから小麦を輸入しませんといえるかどうか、考えるまでもなく明らかだ。そんなことができるわけがないし、やるべきでもない。ありえない話だが、アメリカの小麦を拒否したら、アメリカだって自動車自給率100%にするからトヨタやホンダのクルマは輸入しませんというかもしれない。それで損するのはどっちかな。

 それではなぜ、こんな馬鹿げた話をわざわざ選挙公約にするのか。それはもちろん選挙で農村票を獲得するためだと『日本は世界5位の農業大国』(浅川芳裕、講談社+α新書)はいう。しかも、それを無能無策の農水省が、自分たちの省益のためだけに推し進めているというのだ。この本によれば、日本は世界に冠たる農業国で、安全保障のために食料自給率を高めるのがいかに馬鹿げたことであるかを、データを駆使して解説している。民主党農水省は、自らの党と省の利益のためだけに日本の国益を損なう売国奴だと断言すのだからすごい。非常に興味深い話だが、読んだ後は暗澹たる気持ちになる。

 マスコミは、小沢幹事長を情緒的に「独裁」などと言い立てるが、こういう人々の危機感を煽り立てるようなことはすぐに尻馬に乗って騒ぎ立てる。この国の役人、政治家、マスコミは、いったいどういうレベルなのかというのがこの本の読後感だ。よく売れている(発売1カ月で4刷)ようだが、おすすします。

 ちなみに、この著者は、田中真知さんのブログでも登場した「恐れを知らない男」のあのアサカワくんです。