インフルエンザと経営問題

 メキシコの豚インフルエンザによる死亡者が大幅に減り、弱毒性であることが発表されて、ほんの少し胸をなで下ろしている。新種のインフルエンザは中国や東南アジアから発生するのかと思っていたが、メキシコとは意外だった。結局、地域はほとんど関係ないということか。

 思い起こせば、2003年、鳥インフルエンザSARSが流行したとき、旅行業界は深刻な打撃を受けた。うちもほとんど死にかけた。旅行関係の本が売れないどころか、一時書店から旅行書の棚がなくなり、作った本を置くところさえなくなってしまったのだ。うちのような海外旅行専門の零細出版社はひとたまりもなく、会社は壊滅状態になった。その悪夢がよみがえる。

 海外旅行を専門にする以上、戦争や伝染病で海外旅行ができなくなるとピンチが訪れるのは避けようがない。経営を安定させるには海外旅行以外の本も出版することだが、これがまた難しい問題で、興味もない本を出したくはないし、その本を出して逆に経営が傾くこともあり得る。ただ1冊、海外旅行とは無関係の本『セルフビルド』を出すことができ、幸いにしてこれはまあまあの成功だった。だが、残念ながら続々と出せるほどの蓄積はない。

 うちの場合は、SARSによる打撃で会社を大幅にリストラし、なんとか危機を乗り切った。よくいえば危機に強い体質にした。要するに金がなくても会社がまわるように人件費を切り詰め、支出を抑え、何もかも自分でやるようにしたということだ。あまり発展的な話ではないのだが、こういうふうにすると少々の危機でも、給料を落としさえすれば乗り切っていけるのだ(ある程度は)。

 自分たちだけでやっていくと、仕事量には限界がある。社員が何人もいたときのように本や雑誌がどんどん出せるわけではない。だから会社全体の仕事量は激減した。ついでに私も体力が落ち、個人的な仕事量も減らしたので、ますます出版点数は減っている。そういうわけなので、出版企画の売り込みがよくくるものの、手がまわらない。無名の新人の旅行記は、うちのような出版点数の少ない会社にはリスクが高すぎて難しい(大出版社でも難しいといっていますが)。

 今度のインフルエンザはどれほどの影響を及ぼすのだろうか。伝染範囲が世界的に広がり、犠牲者が増え、どんどん長引けば、海外旅行をしようという人はいなくなるだろう。うちの命運も、インフルエンザの収束時期にかかっているといっても過言ではない。悪霊退散! なまんだぶ。