インドの禁煙

 4月からJR線の全駅で全面禁煙になった。私は喫煙者だが、駅のホームでタバコを吸ったりはしないので、とくに困ることもない。駅での禁煙は世界的な風潮のようで、欧米はもちろんインドでさえ駅(および公共施設)は禁煙になっている。これには少々驚いた。
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 2008年10月2日、インドでも禁煙法が施行され、公共施設等での喫煙が禁止となった。禁煙となるのは、
・レストラン、カフェ、バー、ショッピングモール、娯楽施設、映画館、ホテル(客室以外)
・病院、教育、交通、役所などの公共の施設
・駅、バス停、空港ラウンジ、オフィス、学校など
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 しかし、インド人がこんな規則を守るのだろうかと、当初かなり懐疑的だった。規則ではそうなっていても、適当に受け流して吸うんじゃないのかと思っていたのだ。だが、そうではなかった。この前インドに行ったら、本当に駅での喫煙はぴたりとやんでいた。おお、インドの人々はこんなにも規則に対して従順なのか。私のインド観が一つ変わった(レストランではまだタバコを吸っていたけど)。

 だが、インドの町を歩き、駅で列車を待っていると、この禁煙規定にいまひとつ納得できなくなる。禁煙がいけないということではない。だが、喫煙が非喫煙者に迷惑を及ぼすからいけないというのなら、インドではもっと他に禁止し、遵守しなければならないことがあるのではないかと言いたくなるのだ。

 例えば、インドの町中で盛大にやっている立ち小便だ。あれは禁止されていないのか。禁止されているとすれば、禁煙規定は守れても立ち小便はかまわないという神経が納得できない。あんな迷惑なことが他にあるか?

 それから駅では、プラットホームを移動するのに階段を使わずに、ホームを降りて(階段もないのに)、線路をまたいで次のホームによじ登るということが普通に行われている。もちろんそれをとめる人はいないし、時には駅員でさえ行っているので、おそらく禁止されていないのだろう。日本人的な感覚かもしれないが、こんな危険な行為が喫煙より問題視されないというのも納得できない。

 だが、何故インド人は立ち小便はやめないのに禁煙は守るのか。ムンバイなどではタバコの吸い殻を路上に捨てると、監視員がやってきて罰金を徴収する。まるで東京のようだが、つまりこの罰金が効いているのではないかと私は思う。駅には200ルピーの罰金と書かれているが、立ち小便には罰金などない。

 イギリス人の友人にそういう話をすると、日本人だって酔っ払いがじゃんじゃん立ち小便をしているじゃないかという。なるほど、日本人の立ち小便とは頻度が大幅に違うと思うけれど、酔っぱらって迷惑をかける行為もきびしく取り締まるべきかもしれない(ああ、ますますつまらない国になりそうだ)。

 日本だってそうだが、インドの何もない田舎の駅で列車が長時間停車するときなど、人もほとんどいないようなプラットホームで、禁煙にする意味などほとんどないではないかと私は思う。吸い殻を散らす輩がいると批判される。もちろんそれには同意するが、携帯用の灰皿を持っていても禁止は禁止なのだ。

 インドのある町で列車を降りてリキシャに乗った。やれやれとタバコに火を着けたら、少年が自転車で横にやってきて、「ここでタバコを吸ってはいけませんよ」と注意された。あわてて火を消した私だったが、それから頭に疑問符がついた。インドでは路上の喫煙も禁止されていたっけ? それから数人の人に尋ねてみたが、どの人も、そんなことは禁止されていない。ノープロブレムだという。とすると、学校では子どもたちに禁煙教育がなされているのだろう。それはそれでいいことかもしれないが、公園で大麻を吸ってオヤジどもが楽しそうにしている国で、こういうことになるんだから、まあ世界的な流行なんだねえ。