オベリスクはどこにある?

 先日、読者から拙著『シベリア鉄道9300キロ』についての感想をいただいた。その方は宮脇俊三さんの『シベリア鉄道9400キロ』に触発されて、1990年にシベリア鉄道での旅をなさったという。私の本の中に、アジアとヨーロッパの境界に立つオベリスクのことが書いてあるのだが、私は宮脇さんの記述は現在と違うのではないかと書いた。そのことについてのコメントがあったので紹介させていただく。

 まず、宮脇さんは、そのオベリスクが1777のキロポストを過ぎてから見えたと書いている。宮脇さんの乗った列車は、ナホトカからモスクワへ向かっているので、方向としては私と同じである。だが、私がそのオベリスクを見たのは、1778キロポストの直後だった。

 これについてその読者の方は、キロポストは表と裏で数字が違い、例えば1778キロポストだと、ウラジオストク(あるいはナホトカ)方面からモスクワへ向かうと1778でも、その逆方向から見ると1777になっているから、宮脇さんの記述は間違いではないという。

 なぜキロポストの数字が裏と表で1キロ異なるのかというと、モスクワの駅にいる列車の機関車の位置を0と定めるため、列車の全長を仮に1キロとすると、機関車の位置はモスクワ駅で1キロ異なることになる。列車が1キロもあるわけがないのだが、プラットホームが1キロあると仮定しても同じだ。キロポストの表示は機関車の位置なので、モスクワからウラジオストク(あるいはナホトカ)へ向かう列車は、逆方向の列車より1キロだけウラジオストクよりにある。だから1キロ異なるということらしい。うーん、なんという設定であろうか。そうすると、ウラジオストク駅のプラットホームの長さはどうなるのだ。これは無視していいのかという疑問もあるが、そういえば、ウラジオストク駅には、ここを距離の起点にするという道標がちゃんと立っていた。

 宮脇さんの『シベリア鉄道9400キロ』の記述をもう一度振り返ってみよう。
──「1778」のキロポストを過ぎた。あと1キロである。
──緩い登り勾配が平坦になり、ついで少し下り坂になったようだ。これが分水嶺なのだろうか。しかも、「1777」のキロポストが過ぎていくではないか。貨物列車に邪魔されて肝心のオベリスクを見損なったか! 臍を噛みかけたとき、前方の土手の上に、先の尖った白い碑らしきものが見えた。

 この文章と、下の図を照らし合わせてみると、確かに読者のおっしゃる通りである。宮脇さんはキロポストの左側を見て書き、私は右側を見ていたのである。オベリスクが1777キロ地点にあると書いているのは宮脇さんだけでなく、『地球の歩き方』も同様の記述をしていたが、不思議なのは、モスクワからナホトカへ向かったエリック・ニュービィもやはり同じ記述なのである。ニュービィは逆方向から来て、キロポストの右側を見ていたのだろう。



 ということを考えると、私以外の人々はみなキロポストを過ぎてから、振り返って数字を見ているということになる。私はそうではなくて、キロポストが過ぎる前に進行方向に見える数字を基準にしていたのだ。どっちを基準にしてもかまわないが、ただこのことを頭に入れておかないと、オベリスクの前であわてることになるのでご注意を。ご指摘下さった読者の方、ありがとうございました。