ルーマニアの田舎町より


 また長いこと更新できずに申し訳ありませんでした。僕は今、次号の特集のための取材でルーマニアにいる。ルーマニアはあまり日本人にとってなじみのあるところではなく、情報も多いとはいえない。だからこそ、それではいったいどういうところなのかという興味がわいてくる。


 今いるところは、トランシルバニア地方の南東部にある小さな町、オドレイウ・ヘイウスク。この名前が日本語でどう表記されるのかわからないので、僕がここで聞き取った地名発音を表記している。ここはルーマニアだが、95%の住民がハンガリー系なので、人々はハンガリー語を話している。このオドレイウ・ヘイウスクという町の名前はルーマニア語で、ハンガリー語ではシゲウドボルヘイというらしい。これもまた僕の聞き取り表記なので、他の地図や本では別のカタカナ表記がなされているかもしれない。


 ルーマニアは、昔からタタール人が攻め込んできたり、オスマン帝国に侵略されたり、あるいは近代ではオーストリアハンガリー二重帝国の領土になったりと、あっちこっちから領土をとられたり、取り返したりしている。トランシルバニア地方も、オーストリアハンガリー二重帝国のハンガリーの領土になった時代があって、その頃、ドイツ人とハンガリー人が移民してきた。だから、ここには多くのハンガリー人と、多くはないがドイツ人が現在もルーマニア人として住んでいる。


 そういうわけなので、たとえばクルージュ・ナポカという町などは、建物はドイツ人が建設し、名前もルーマニア語名、ハンガリー語名、ドイツ語名、それにラテン語名と四つもあるというから驚く。各々の人々が各々の名前で呼び合っているのだろうが、ここでもレストランなどにはいると、メニューにルーマニア語ハンガリー語が併記してある。スペインでも、バルセロナに行くと、スペイン語カタルーニャ語が併記してあるが、あれと同じである。


 ところで、ルーマニアの基本的な知識だが、僕もここに来るまでまったく知らなかった、というか、意識したこともなかったのだけれど、ルーマニアは英語では、ROMANIAと書く。ROMA NIAで、ローマ人の国という意味なんだそうな。ルーマニアがローマ人の国という意味だとは、まったく考えたこともなかった。ルーマニアは本来はダキア人という先住民族の地だったが(ルーマニアの国産自動車はダキア、あるいはダチアという。今はルノーの傘下だが)、ローマ帝国が占領して、現在のルーマニア人たちは、自分たちが(攻め込んできた)ローマ人の子孫であることを誇りにしているというわけなのである。それってなんかちょっと変な気がするが。


 しかし、ルーマニア語はラテン系の言語である。このバチカン諸国の中では、周囲の国々がスラブ語系なのに、ルーマニアだけ孤島のようにラテン語系であるのは、歴史の織りなす偶然ということなのだが、とはいえ、住民のほとんどがハンガリー系であるような町に来ると、せっかく覚えたルーマニア語の挨拶も使えずに、あらためてハンガリー語の挨拶を教えてもらっている始末である。このような事情からか、ルーマニアには英語を話す人は多くはないが、ルーマニア人はラテン系のスペイン語やフランス語を話す人が多く、ハンガリー系はドイツ語を話す人が多いようだ。ブカレストでは日本語を話す美しい女性に会って大変驚いたけど。


 今しばらく、ルーマニアをみてまわる。ちょっと物価が高いのが難点だが、9月のルーマニアは気候もよく旅するのにちょうどいい季節かもしれないと思う。