ノンフィクションを読もう


 めっきり寒くなってきましたが、みなさまお元気ですか。もう12月も中旬になってしまいました。

 ずいぶん前のことだが、テレビで内沢旬子さんが出ている番組をやっていた。それを見て、モノカキというのはつくづく大変だなと思った。内沢旬子さんは、先般『世界屠畜紀行』(解放出版社/2310円)という本で注目を浴びたレポライター・イラストレーターだが、もしかしたら読者は『東方見便録』という本ですでになじみがあるかもしれない。『世界屠畜紀行』は、この種の本では異例の1万5000部を売り上げて、世間の注目を浴びた、とテレビで言い、版元の担当編集者が、こんなに売れるとは思わなかったから初版4000部だったんです、まちがえました、と苦笑いしていた。

 で、彼女はその後も屠畜取材を続けていて、この番組ではキューバ取材の模様が放送されていたが、はっきりいって1万5000部売れたって、こういう取材費用はほとんど捻出できない。1万5000部の印税は10%だと仮定すると350万円足らず。普通のサラリーマンの稼ぎの1年分にも満たない。それで異例の売れ行きなのだ。これではこのジャンルに参入してくる新人がいなくなる一方だが、本が売れない以上しょうがないのである(1万5000部というのは番組が放送された時点の話なので、現在はもっと売れている可能性が高い)。

 このまえ会社を辞めたばかりでライターを目指しているという若い人に会った。辞めた会社が大企業で、そこを辞めて、海外物のノンフィクションを目指すというから、若さの特権というか、これ以上無謀なことはあまりないであろう(と本人にもついいってしまったが)。辞める前に相談してくれれば、少なくとも3年、できれば5年働いた後、もう一度考えてから実行しなさいとアドバイスできたんだけどねえ。ま、知らない人なんだから相談できるわけがないですよね。

 そう考えてみると、実は今までいろいろな若者から、モノカキになりたいんだけどどうしたらいいですかと相談を受けたことがある。その中には有名になった作家の方もいて、それは多分私のアドバイスを無視したおかげである。私の意見など無視するぐらいでないと有名にはなれません。

 自分はまったく就職などしたこともないくせに、私はだいたいにおいて就職することを勧めている。無責任なアドバイスだが、もちろん私は自分のアドバイスに責任など負っていないし、就職がダメだと思ったら、辞めればいいだけのことなので、とりあえず人生のうちで一度しかない「新卒」という肩書き(もちろん大卒の場合ですが)を、せっかく大金を親が払って得ているのに、無駄にするのはもったいないと思うからである。

 では、私は何故就職しなかったのか。簡単である。就職試験に落ちたからだ。入りたいと思ったのに断られたんだからしょうがなかったのである。そのうえ卒業するにも単位が足りず、5月卒業になってしまったので、もし内定が決まっていても、結局入社できなかったかもしれない。徹底的にアホな学生だった。

 私の話はとにかく、そういうわけなので、ノンフィクションで生計を立てるのは、今の日本ではものすごく大変なことなのである。「本の雑誌」や、この前の朝日新聞に、高野秀行さんが「エンターテインメント・ノンフィクション(略してエンタメノンフ)」というジャンルを唱え、もっと楽しく読めるノンフィクションをと訴えている。ノンフィクションは重苦しく、敷居が高いと思われがちなので、楽しいノンフィクションもあるから、皆さんもっと読んでねということだ。こういうふうに訴えたい気持ちは、よーくわかる。それで売れてくれればホントにいいんだけどとつくづく思う。

 今売れに売れている『ホームレス中学生』だってノンフィクションだし、ある意味であれも「エンタメノンフ」といえるのではないかと思うが、本来ノンフィクションは多様なのであり、重苦しいものもあれば、楽しいものもある。エンタメという言葉から外れる重いテーマや地味なテーマのノンフィクションが廃れていくのは悲しいことだ。それを支えているのは、いうまでもなく読者なのである。みなさん、楽しいものも重いものもひっくるめて、ノンフィクションをどしどし読みましょう。


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