『怪獣記』と『新・UFO入門』+追記

 ご存知、高野秀行さんが新刊『怪獣記』(講談社/1500円)を出した。けっこう評判になっているようなので、ご存知の方も多いと思うが、遅ればせながら私も拝読した。高野ファンには期待を裏切らない一冊である。

 例によって、トルコのワン湖に棲息するといわれている謎の怪獣ジャナワールを追い求める高野さんの珍道中が描かれている。この怪獣はUMA(未知動物)ファンには注目されている生き物であるらしい。世の中にはUMA(未知動物)マニアという業界があることを私は知らなかったが、まあ、そういわれてみればあっても不思議ではない。

 高野さんは、そういう業界仲間によく知られているUMA(未知動物)にはあまり興味がないという。業界仲間によく知られているのでは、すでにUMA(未知動物)とはいえないからだ。だが、今回のジャナワールは、撮影されたビデオが放映され、なんと国会図書館に収納されているトルコ語の本に、この怪獣についてのものが発見された。いかにもうさんくさいビデオ映像はどういう事情で撮影され、なぜこんな本まで出版されているのか。それを追い求めて高野さん一行はトルコへ飛ぶ。

 私のような一般的、常識的な人間には、そんな怪獣なんかいるわけないだろと一言で片づいてしまう。だから怪獣探しの本など、著者が高野さんでなかったら絶対に読まないだろう。高野さんの本を読むのは、怪獣がいるかどうかが問題なのではなく、高野さんの書いた文章を読みたいからだ。

 高野さんは、自分を「平凡で常識的な人間」(「IN-POCKET」2007年9月号)だと認識しているという。平凡かどうかは別にして、僕も彼を常識的な人間だと思う。怪獣を追いかけている人間が、まず常識的な認識を持っていないと、おそらく読めたものではないだろうと思うのだ。ワン湖の怪獣なんて眉唾だという常識的な判断や予測がなく、ワン湖には怪獣がいるのだ! というノリで書かれた本だったら読む気にはなれない。

 それを前提に、それでは何故ジャナワールは撮影され、そしてそれが流布されたのか。それが解き明かされる行程がおもしろいのである。もちろんそれは読んでいただくしかないが、最後に「え?」という意外な結末も用意されているから、高野ファンはぜひ楽しみにされたい。

 『怪獣記』を読み終わったら、最近読んだUFO業界について書かれた本『新・UFO入門―日本人は、なぜUFOを見なくなったのか』 (唐沢俊一幻冬舎新書 ) のことを思い出した。私は15年ぐらい前にタヒチに行くまで、UFOというのは他の星から飛んできた宇宙人の乗り物のことだと思っていた。タヒチで、UFOが地球にやってきて地球を救ってくれると本気で信じている一団の人々と話をして、どうやらこれはほとんど宗教のようなものであることを知った。彼らはほとんど全員がUFOを見たことがあるという。

 『怪獣記』で高野さんも、ウソとか真実とかではなく「見えてしまう人が世の中にはいる」というようなことを書いている。このUFOも、ウソとか事実とかではなく、見えてしまう人々がこの世にはいるのである。唐沢氏も極めて「常識的」な人間であり、彼は「UFOが飛んでいるのは空ではない。空を見上げるわれわれの、脳の内部を飛んでいる」と書いている。その意味では、怪獣もUFOも、あるいは神さえも、われわれの「脳の内部」に存在するものにすぎないのだろう。

怪獣記
怪獣記
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高野 秀行
講談社 (2007/07/18)
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追記
 上の『新・UFO入門』について、高木辛哉さん(『ウルトラガイド 西チベット』著者)から盗作疑惑問題が持ち上がっているというご指摘をいただきました。ネットをちょっと調べてみたら、「漫棚通信」に掲載された文章から、唐沢俊一氏が大幅に無断転載したことが問題になっています。これは唐沢氏本人も認めているようで、ホームページで謝罪文を掲載し、「初版印刷分に関しては出版社在庫を裁断し、当該部分を差し替えた版を至急製作して、当該箇所にはその事情を説明した文章を付記させていただきます。」と書いています。
 つまり、私が購入し読んだのは、断裁前の初版だったのですね。ご購読をお考えの読者におかれましては、差し替えた新版のほうがいいかもしれませんね。参考までに、下記がその当事者のアドレスです。

漫棚通信ブログ版
http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_a49c.html

唐沢俊一ホームページ
http://www.tobunken.com/index.html