新しい企画の本

 しばらく書いてないなと思っていたら、しばらくどころかもう6月じゃないか。なんと1カ月もたっていた。すいません。トップページの底に沈むこと久しく、ボトムの常連、田中真知さんもすでに上の方へ飛び、あせりつつ書いている。

 書かなかったのは、もちろん忙しかったのである。今は次の単行本を制作しているところで、本誌次号にかかる前に、なんとしても目鼻を付けなくてはならない。今のところ目はついて、もう少しで鼻もつくというところまできた。まだ眉毛もあれば口もあるが、だいたいの形が整ってきた。

 新しい単行本は、我が社としてはひさびさのビッグ・プロジェクトで、取材すること1年余、カメラマンまで使って写真を撮影しに行き(そんなことは当たり前なんじゃないのかと思うでしょうが、うちではカメラマンを写真だけでお願いすることはほとんどない)、全288ページのうち半分近くが4色カラーという金と手間のかかった企画なのである。

 いったい何の本なのかというと、セルフビルドの本なのである。え? 旅行人なのに旅の本じゃないの? とお思いの方もいらっしゃるだろうが、旅の本ではなく、ハンドメイドで造った家を集めた本なのだ。海外のではなく、日本のセルフビルド住宅である。こういうセルフビルドの家がいったいどれぐらいあるのか、企画した当初は不安だったが、取材していくうちに、あるところにはあるということがわかってきた。

 それではなぜ旅行人が「家」の本なんか出すのかというと、もちろんそれは私が興味があるからだが、あちこち海外を旅行していて、人々の家というのは自分たちで造った家に住むのが、それほど珍しいことではないということを知った。アジアやアフリカを旅行した方ならご存知のことだろう。そういった家々が実におもしろいのだ。

 日本では家を建てるというのは人生の一大事業だ。東京だと土地代まで入れれば数千万円である。とてもじゃないが、手軽に建てるというわけにはいかないし、家を建てることが一生の夢であることも珍しくない。逆に言うと、人生の負担にさえなっている。何千万円も払うには数十年のローンを組まねばならないからだ。しかし、本当に家というのは、数百万円あるいは数千万円の金がないと建てられないものなのだろうか。アジアやアフリカの人々のように、自分で建てて住むことはできないのか。

 二昔前までは、自分一人で海外旅行することも驚かれたものだ。インドに一人で旅行するなんて大丈夫なんですか? とか、一人でアフリカに行くなんて冒険ですね、とか、よくいわれた。もちろん今もそういうことをいう人はいるが、少なくともうちの読者は、それがそれほど難しいことではなく、しかも、いかに楽しくて面白いことかも知っている。

 それとセルフビルドは似ていなくもない。個人ではアフリカなんかには行けないと思い込んでいたことと、自分では家なんか建てられないと考えることは、ある意味で同じなのだと思ったのだ。家なんか簡単に建てられる。それで満足できるかどうかだけの問題だ。あの大建築家のコルビジェだって、終の棲家は粗末な小屋だった。

 取材を進めるうちに実にさまざまな家に出会った。2週間でぱたぱたと建てた小屋に10年以上住んでいる人もいれば、10年以上かけて未だに建築中という人もいた。家の形も、住む人の暮らし方も実にさまざまである。これなら自分でも造れると、この本を読めばきっと思っていただけるはずである。自分で家を造ることは、人生の重荷をおろすことなのだ、きっと。

 というわけで、いまのところ、発売は9月10日を目指している。詳細が決定したら、本誌やホームページでお知らせしますので、ぜひご覧下さい。よろしくお願いします。