香港の友人とテレビを見る

 先日、香港の友人が日本に遊びに来た話を書いたが、彼ら夫婦にはそれぞれごひいきの日本人の女性タレントがいる。一緒にテレビを見ていたら、その彼女たちが出てきた。夫の方は相田翔子、妻は松島菜々子である。彼らの目には、このご両人とも「日本人じゃないみたい」な容貌であるらしい。僕の目には二人とも日本人にしか見えないが、そういわれてみると、この二人が中国人であっても、あるいは韓国人であっても、それほど疑問を感じないかも知れない。

 それで、香港人夫婦に「あなたがたがイメージする典型的な日本人の容貌をしているタレントは誰か?」と尋ねると、タレントでは思い浮かばないが、ぽっちゃりとして、細いつり目の女性だという。なるほど、いかにもハリウッド映画に出てきそうなジャパニーズ・ガールがそのイメージになっている感じである。

 もっとも日本人の顔もかなり変化しているらしい。よく知られていることだと思うが、顔の形は食生活によってけっこう変化するものらしく、近年の食生活は昔と比べると柔らかいものが増えてきたので、アゴの骨が小さくなったという。アゴが小さくなったせいで、歯の生えるスペースが狭くなって、最近の子供は歯列矯正をする子が増えたという話だ。歯列矯正できるほどの経済的な余裕が昔よりあることもあるだろうが。

 今度はニュースを見ていたら、あるお方がさる事件を引き起こして苦境に立たされていることを報じていた。その概略を説明し、僕がこの人は四面楚歌だなというと、日本語の達者な香港人の妻が、何故中国のことわざを使うのかという。日本人にとって中国の古いことわざや故事は、基本的な教養の一つで、日常的にこのような言葉を使うし、「三国志」なんかはかなり多くの日本人が読んでいるのだと説明すると、かなり驚いていた。

 言ったあとで、果たして中国の故事が本当に日本人の教養になっているのか疑問が湧いたが、「泣いて馬謖を斬る」だの「断腸の思い」だのはワープロ変換でも一発で出てくるし、まあ常識の部類に入るのだろうと思うが、得意になって香港人に「君ね、国破れて山河ありって知ってる? 杜甫だよ。こんなのは日本人なら全員知っているよ」というと、その続きを聞かれて出てこなかった。「城春にして草木深し」と続くんだった。

日本人の教養としてご参考までに

国破れて山河あり
城春にして草木深し
時に感じては花にも涙をそそぎ
別れを恨みては鳥にも心を驚かす     
烽火三月に連なり
家書萬金にあたる
白頭掻かけば更に短く
すべて簪(しん)に勝(た)へざらんと欲す