スパイス攻撃

 先日、インドへ行った帰り、カルカッタ空港での検査が異常に厳しかった。X線で金属が発見された荷物は、すべて厳重にチェックされ、ライターはおろかマッチ一本さえも破棄させられる。うっかりライターをバッグに入れているのを忘れていた日本人旅行者は、「ライターはない」といったものだから、それが発見されて3回も検査をされ、怒るのを通り越して笑っていた。

 しかし、なんでこんなに厳しいんだろう。タバコの火を貸してもらった日本人旅行者に何気なく言うと、彼は言う。「そりゃ、今日が9月11日だからでしょう」ああ、そうだった。そういえば今日は9・11だった。うっかり忘れていたよ。

 チェックインカウンターで、係員に一枚の紙を手渡された。機内への持ち込み禁止物一覧表だ。カッターナイフ、ライター、銃などといったものが並ぶ中に、スパイスと書いてある。スパイス? スパイスって香辛料のことか。他に何か意味があるのだろうか。もしかしたら香辛料以外の意味があるのかもしれないと思い、後学のために係員に質問した。

「スパイスって何の意味ですか?」
「スパイスは料理に使うものだよ」
 やはり香辛料のことではないか。
「なんで香辛料が禁止なんですか?」
「君は香辛料を持っているのか?」
「いや、持ってませんよ。だけど香辛料に何の問題があるんですか」
「香辛料といっても、問題があるのはチリ・パウダーだけだ。他の香辛料は問題ない」
「チリ・パウダーの何がいけないんですか?」
「あれは目つぶしになるだろう。だからダメなんだ」

 目つぶし。はあ、目つぶしねえ。僕はそれを聞いて次のようなことを想像した。
──飛行機の中でハイジャッカーが乗務員をはがいじめにして、こう叫んだ。
「飛行機を東へ向けろ! 言うことを聞かないと、乗務員の目にチリ・パウダーをすりこむぞ!」

 これじゃ、いしいひさいちさんのマンガだな。笑い事じゃないんでしょうけど。