『欠陥車と企業犯罪』を読む

 神保町を歩いていたら、伊藤正孝の文庫『欠陥車と企業犯罪―ユーザーユニオン事件の背景』(教養文庫)を発見した。伊藤正孝といえば、『南ア共和国の内幕―アパルトヘイトの終焉まで』(中公新書)、『ビアフラ―飢餓で亡んだ国 (講談社文庫)』などで知られる名記者(故人)だが、欠陥車問題に関するドキュメントを書いているとは知らなかった。思わぬ拾い物をして、お値段は250円。すぐに読む。

 ホンダが社運をかけて送り出した軽自動車N360は、速度を上げるとハンドルがきかなくなり、蛇行し始めるという欠陥車であった。そのために死者さえ出たのだが、それはまるで現在の三菱自動車の事件とそっくりで、死者の数からいえば、もっと悪質な欠陥車だった。

 三菱自動車は当然世間から糾弾され、捜査の手も入ったのに、ホンダの欠陥車の場合は、捜査が入るどころか、政府はホンダという企業を守る側にまわってしまうのである。この本によれば、ある程度被害者と和解は成立しているが、結局最後までホンダは欠陥車であることを認めていない。

 そういえば以前NHKの「プロジェクトX」でホンダ奇跡の自動車生産みたいな番組をやっていた。それを見た記憶では、ホンダにとって欠陥車問題が大きな痛手になったが、それをも乗り越えてホンダは現在の興隆を築き上げた、という仕上がりになっていた。企業側から見た成功物語だから当然そうなるのだが、見方が違うとこうも違うものか。

 というような話を、昨日座談会で会った前川健一さんにしたら、
「そりゃ大企業になるような会社は多かれ少なかれ汚いことに手を染めているわけで、そうしなかったら大きくはなれないよね。例えばタイに工場を造って現地生産に進出するということは、タイの警察やら役人やらに取り入るということだから、きれいごとじゃすまないでしょう」という。

 確かにそうである。ホンダ欠陥車問題の当時、ホンダだけが欠陥車を隠していたわけではなく、トヨタの車にも日産の車にも欠陥はあり、特に日産のエコーというバスは事故が多発していたという。それを「乗り越えて」、あるいは「多くの人を事故死させて」、ようやく日本のクルマは、「世界品質」といった評価を受けるに至ったということがわかる。もちろん日本人の製品に対する意識も、当時よりきびしいものに変わったのだろう。