ポジフィルムのデジタル化に挑む(1)

 ヒマを見ては、せっせと古いポジフィルムをスキャンしていた。うちにあるのはフラットベッドのスキャナーで、普段は紙類をスキャンする機械だが、アダプターを使えば一応ポジもスキャンできる。これまではこれでやっていたのだが、スキャンに非常に時間がかかるので、大量にスキャンするのは無理だった。できあがりもいまひとつで、なんかピントが甘くて、色もすっきりしない。
 最初はピントが甘いのは私の撮影が下手なせいだろうと思っていたが、ルーペでポジをのぞくと一応ピントは合っている。いろいろ試してみたが、どうやっても改善されず、それだけでかなりの時間を費やすことになってしまった。
 スキャナーを買い直そうかとも思ったが、今やポジをスキャンするスキャナーは少なくなっていて、安いスキャナーを買っても性能がどうなのかわからない。それに、新たにスキャナーを置くスペースもない。
 とりあえずスキャンした古い写真を数枚ネットにアップしていたのだが、その際、Facebookでスキャンに苦労していることを書いたら、何人かの人がアドバイスをくれた。スキャナーは時間がかかるので、カメラで複写するほうが速いという。そういう方法もあるのか。
 カメラマンの有賀正博さんが、その方法を書いた自分のブログを教えてくれたので、さっそくそれを見た。これがそれです。
ポジフィルムのデジタルデータ化に試行錯誤する【コピーアダプター ES-1】
https://www.photo-yatra.tokyo/blog/archives/556

 これによれば、レンズの先に、「Nikon スライドコピーアダプター ES-1」を付けて撮影するらしい。これを使えばデジタル一眼レフマクロレンズで簡単に複写できるとある。ES-1は3200円程度のものなので、これで「簡単に複写」できればいうことない。これに挑戦することにした。
 だが、ここから先が大問題。プロのカメラマンなら、これを付ければ簡単に複写できるだろうが、僕がやってもそう簡単にはできないのだ。
 有賀さんのブログにはこう書いてある。
 ーー例えばソニーα6000に純正マクロレンズSEL30M35でも、フィルター径変換アダプターをかませば使える。


 私が持っているカメラはこのα6000だが、マクロレンズは持っていない。今付いているズームレンズではES-1は使えないのだ。
 新しいレンズをポジ複写専用に買うべきか、悩むこと数週間。
 僕はカメラマニアではないので、できるだけ高価で余分なカメラやレンズは買いたくない。使わないことは目に見えているからだ。複写専用にレンズを購入して、果たしてどれほど使用するだろうか。そう考えながら、とりあえず今あるスキャナーでポジのスキャンを続けてみたが、やっぱりぜんぜん使い物にならない。10枚ほどのスキャンでも恐ろしく時間がかかる。古いポジフィルムは膨大な数があり、それをすべて複写することはないにしても、最低でも数百枚はやらなくてはならないだろう。とてもじゃないがこのスキャナーでは無理であると判断した。
 それでは、そのマクロレンズはいくらなのか。
 有賀さんのいうソニーマクロレンズSEL30M35(30mm)は2万3000円だ(アマゾン価格)。うーん、べらぼうに高くはないが、安くもないなあ。などと思いつつ、サイトを見ていたら、シグマのマクロレンズで30mmのものがあった。これだと約1万5000円。同じ30mmのマクロレンズで8000円も安い。これだよとポチッと押した。これがまあ素人の浅はかさであることは、届いてすぐに判明する。
 届いたレンズをカメラに装着し、それにES-1も付け、ポジを挿入してからファインダーをのぞくと、ぼんやりとした画像しか見えない。まったくピントが合わないのだ。
 なんでこうなる?
 僕が知識のない頭で考えてもわかるわけがない。
 有賀さんに相談する。プロのカメラマンにこういうことを相談するのはあまりにも図々しいが、他に手もないし、正直言って泡を食っていたので、あわてて有賀さんにすがったのだ。
 すると、有賀さんは僕が買ったレンズを調べてくれ、このレンズは最大撮影倍率が1:8.1だから、ハガキサイズより小さいものは写らないという。つまりぜんぜん使い物にはならないのだ。
 がっくり。知識もないのに、安いというだけで買っちゃいけないのね。
 それで、やっぱりソニーの純正マクロレンズSEL30M35でないとダメということになる。シグマのレンズは速攻で返品。こういうとき通販は助かりますね。ごく普通に返品を受け付けてくれた。それでソニーのレンズをあらためて買い直す。

 ここまで要した費用が、
 Nikon スライドコピーアダプター ES-1 3200円
 ソニーマクロレンズSEL30M35 2万3000円
 フィルター径変換アダプター 390円
 合計2万6590円。

 次回はいよいよ撮影に入ります。 

蔵前仁一インドトーク インド先住民アートの村へ

 ひさしぶりの関西巡業で京都へ参ります。
 インドの田舎の村々へ、先住民アーディバシーの壁画を求めて旅をした様子と、そのときに撮影したレアな壁画やペインティングの数々をご紹介いたします。ミティラー画、ピトラ画、ミーナー画、ワルリー画、ゴンド画などなど。たぶん、こういう壁画やペインティングをまとめて見られるのはなかなかないと思いますので、ぜひご参加ください。
 参加申し込みは、メールでお願いします。
 パソコンのメールを受け取れるメールアドレスでお申し込みください。
 admin★ryokojin.co.jp(★を@に入れ替えてください)
 メールの件名を「インドトーク」として、お申し込みする方の、お名前、住所、電話番号を銘記ください。
 参加ご希望の方が複数の場合は、そのお名前もお書きください。
 定員に達し次第、締め切りますので、よろしくお願いします。
【日時】2018年7月29日(日)
【開場】13:30
【開演】14:00 - 16:00
【定員】60人
【料金】1500円
【場所】京都テルサ 東館2階 視聴覚教室
    京都市南区東九条下殿田町70(新町通九条下ル)
    http://www.kyoto-terrsa.or.jp
    アクセス
    ●JR京都駅(八条口西口)より南へ徒歩約15分
    ●近鉄東寺駅より東へ徒歩約5分
    ●地下鉄九条駅4番出口より西へ徒歩約5分
    ●市バス九条車庫南へすぐ
    ●名神京都南インターより国道1号北行き市内方面へ

新刊『テキトーだって旅に出られる!』

  

 去年から書いていた本が、ようやく4月25日の発売までこぎ着けた。ほぼ書き下ろしだが、以前雑誌に書いた原稿を引っ張り出して、大幅に修正や加筆を加えたパートもある。

 産業編集センターという出版社から執筆の依頼を受けたのだが、注文は「旅に出たくなるような入門書」というようなものだった。バックパッカーの数は減っているといわれているが、やりたいけれど敷居が高いと思っているような人の背中を押せるものになればいいなと思って書いた。
 とはいえ、僕はいわゆる旅の入門書は、ガイドブック以外読んだことがない。そもそも旅に出るのに、旅に出たいという思い以外に必要なことなど何かあるのか? というのが僕自身の素朴な問いだが、それがどうもよくわからない。それを考え考え書き綴っていった。人に教えられるような旅の技など何も知らないし、だいたい旅に技なんかあったっけ?
 初めてアメリカへ旅に出る時、2か月近い旅行になるので団体旅行はまったく選択肢になく、バックパッカー旅行しかなかった。そのときの不安は旅にどう作用したのかを考えた。
 初めて長い旅に出た時、僕にとって必要なものは何だったか、僕は何を持って出かけたのか。思い出してみると、実に無駄なものばかりだったことに思い当たる。今と違って、昔はフィルムとカメラだけでも重い荷物になったものだが、海外では電池が売っているのかさえわからない僕は、1ダースもの電池を予備に持ったりしたのだ。
 今考えれば間抜けなことばかりで、まあ、そういう自分の間抜けな話ばかり書いた。基本的に深く考えて行動するというタイプではないので、テキトーに思いついたことを行動にうつすと、それなりに無駄なことも多く、手間もヒマもかかる。それでもまあ一応旅はできるわけだ。
 旅をするのに、何が必要で何が不要かは人によって違うし、旅をしてみなければわからない。ややこしいことに、旅をして必要だと思ったことも、次の旅には不要になり、不要だと思ったことが、かなり大切だったことが後になってわかることもある。そういうことは次々に変わる。だから、結局のところテキトーにやるしかないのだ、と僕は思っている。完璧な旅など目指してもかなわぬ夢だ。バックパッカーの旅行で予定通りにいくことは少ないし、予定通りにいかないからおもしろいのだ。それは時間通りという意味だけでなく、旅先で出会うことも含めてなのだが、凱旋門を見に行ったつもりが、途中で他のぜんぜん知らなかったものを見つけることもあるかもしれない。そういう不確定な、予定外のことこそがおもしろいのであり、予定は一応あればそれでいいぐらいのものだ。
 というようなことを考えると、旅に出るのに必要なものはほとんど何もないということになる。しいていえば、パスポートとお金と旅行保険ぐらいかな。あとは、旅に出るかどうかはあなた次第ですということで終わりなんだけど、それじゃ本にならないので、いろいろ書きました。お読みいただければ幸いです。
 もうアマゾンでも予約ができるようになっているんですね。よろしくお願いします。

テキトーだって旅に出られる! (わたしの旅ブックス)

テキトーだって旅に出られる! (わたしの旅ブックス)

世界を変える美しい本

 2017年もいよいよ押し詰まってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 今年は「ゴーゴー・インド30年」イベントのせいで、例年になく忙しい一年だった。考えてみれば、今年はどこにも海外旅行に行かなかったが、それを感じさせないぐらい気忙しい年だった気がする。
 今、近所の板橋区立美術館「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」という展覧会が開催されている(来年1月8日まで)。すでにご覧になった方も多いと思うが、これはマスコミでも取り上げられたり、なんと皇后が来館するなど大きな反響を呼んでいる。もちろん僕も見にいきました。

 タラブックスというのは、インド、チェンナイにある出版社で、シルクスクリーンによる手作りの美しい本を出版しているところだ。その絵本とシルクスクリーンの絵を展示したのが今回の「世界を変える美しい本」展なのである。
 絵本を作る過程が館内のビデオで流されているが、シルクスクリーンによる印刷は1枚1枚が手刷りであり、刷ったページを束ねて糸でかがり、製本するのもインドの職人が1冊1冊手作りしている。手間暇かかる本なのだが、こういうことができるのもインドにまだ職人が存在するからだろう。日本でこんなことをやったら、とんでもない費用がかかるだろうが、これらの本は1冊3000円〜5000円程度で美術館でも販売されている。ページをバラして絵を額に入れればそのままシルクスクリーンの絵画として鑑賞できるクオリティだ。

 タラブックスが出版している一連の絵本の絵は、主にインド先住民の人々の絵だ。僕がこれまでインドに見にいったり、本にしたりしたインド先住民アーディヴァシーたちの民俗画で、ほとんど日本で関心を持つ人はいなかった、というか、知られていなかった。
 日本でと書いたが、実はインドでも普通の人はほとんど関心がない。最近、ワルリー画の絵柄がエスニック風の柄として、インドでもTシャツやスカーフに取り入れられたりしているが、だからといって多くのインド人に親しまれているという雰囲気ではない。例えばタラブックスが一躍その名を知られることになった『夜の木』(2008)は、インド国内よりも海外で評価されたという。これが本当に美しい本で、1枚1枚額に入れたい絵ばかりです。
 それが、いきなりご近所の板橋区立美術館で展覧会が開催されるのだからびっくりである。こんなマイナーなテーマの展覧会を、キャッチフレーズが「永遠の穴場」っていうぐらい便の悪い板橋区立美術館まで何人見に来るのかいなと思っていたら、あにはからんや大盛況! 知人の計らいで、ミーナー画の特集ということでついでに置いてもらった「旅行人」復刊号も、どかんどかん音がするぐらい売れて信じられない思いである。

 それで先日は皇后が見にいったというのでTBSのニュースにもなったのだが、それを見たら、アナウンサーが「皇后さまがインドの先住民の絵を熱心にご覧になられました」という。「皇后さまがインドの先住民の絵を熱心にご覧になられました」だよ。「皇后さまが絵を熱心にご覧になられました」ならみんな理解できるだろうが、「インドの先住民」なんて一体何人の人が理解しているのだろう。
 いやそんなことはどうでもいい。とにかく皇后さまがご覧になったんだってという理由で十分なので、どしどしと絵を見に行く人が増えれば素晴らしいことだ。そこにあるのは、紛れもなくインド先住民の絵なのだ(先住民じゃない人の絵も一部にはありますが)。それを板橋で見られるってのはほとんど奇跡に近いよ。僕なんかわざわざインドの田舎まで、探しながらようやく見られたんだから。
 しかし、そうはいっても板橋までは遠くて行けないという方には、この本をお勧めする。その名もずばり『タラブックス』玄光社)という本だ。これを読めば、板橋区立美術館の内容がより深く理解できる。本展の図録『世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦』ももちろんおすすめだ。これ自体が本当に美しい本ですよ。クリスマスプレゼントにもぴったりです。ちょっと遅いけど。

 それでは、皆様、来年もよろしくお願いします。よい年をお迎えくださいますように。

『夜の木』夜の木

タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる

タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる

タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる


『世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦』世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦

インドのカレーは辛いのか?

 FACEBOOKツイッターで「インドを旅した方で、インドのカレーは辛かったですか?」という質問をしました。ご協力くださった方が、ありがとうございました。
 なぜ唐突にこんな質問をしたかというと、今、来年出す予定のエッセイを書いているところで、インドのカレーははたして辛いのかという素朴な疑問にぶつかったからです。
 というのも、僕はインドのカレーをそんなに辛いと思ったことがなかった。ぜんぜん辛くないとはさすがにいいませんが、すごく辛いとか、辛くて食べられないということはほとんどなかった。しかし、インドのカレーといえば辛いと相場が決まっていて、ネットや旅行記をみると、ほとんど辛くて食べられなかったという話ばかり。僕の味覚のほうがおかしいのかと思い、皆さんにお聞きしたのです。
 そこで、寄せられた答えの発表です。コメントや返信はオープンになっているので、すでに皆さんもご存知のことと思いますが、圧倒的に「辛くない」「そんなに辛くない」が多かった。
 FACEBOOKツイッターのコメント数は140。
 ・辛くない 61%
 ・そんなに辛くない 25%
 ・辛い 7%
 ・どっちもあり 7%
 僕の感覚がそれほど異常ではなかったことが証明されてよかった(笑)
 もちろん、辛かった人の感覚が異常だというわけではありません。辛いものも、辛くないものもあったという答えが7%ありましたし(これ当たり前ですけどね)、辛さに強いか弱いかでも答えは分かれます。
 インドよりタイ、スリランカブータンパキスタン、中国四川のほうがずっと辛いという方もかなりいました。僕もタイは激しく辛いと思います。スリランカもその次ぐらいに辛かった。
 インドの北と南では、北の方が辛い、南の方が辛いと意見が分かれました。僕の経験では北はちょっと辛く、南はぜんぜん辛くないという感覚です。ミールスなんかどこで食べてもまったく辛くなかった。
 安食堂と高級レストランでは辛さが違うという意見もあり、これもまたどっちが辛いか意見が分かれました。手軽な味付けとして安いチリを多用する安食堂のほうが辛いという意見。高級レストランで何を食べても容赦なく辛かったという体験もあり、よくわかりませんが、安食堂しか行ったことがない僕には、安食堂のターリーやミールスが辛かったという覚えはありません。辛さを求める場合は、カレーを食べながら、わざわざトウガラシをかじっていました。もっともトウガラシも、辛くないものもあるのですが。
 インドの食に詳しいアジアハンターの小林真樹さんにご意見をうかがいましたが、小林さんによれば、インドの中でも辛い料理を好む地域があり、例えばアーンドラプラデシュ州南部、タミルと州境を接するあたりのラヤラシーマ地方またはラヤラシーマ料理と呼ばれる料理はそうとう辛いそうです。
 おおまかにインドのカレーは辛かったですか? とお聞きしたので、この答えに正解はありません。どっちもあるに決まってます。辛いのか辛くないのか微妙な表現もありましたので、上の数字もおおまかなものです。だけど、圧倒的にインドのカレーは辛いという意見の多い世間のイメージ通りではないということが、これで少しは覆せたかもしれません。サンプル数は少ないですけど。

ゴーゴー・インド30年のイベントを終えて(2)物販部門

 会場費+運営費のメドは立ったが、利益が出るのは物販にかかっている。そういうわけで、半年間、僕は一心不乱にグッズおよび本をつくりつづけた。一応グラフィックデザイナーである僕は、本や雑誌のデザインはいつもやっているが、トートバッグやTシャツのデザインはあまりやらない。
 なので、畑違いの作業になるが、それはそれで楽しいものだ。最近はこういうものもすべてネットで注文制作できるようになっていて、作業自体はむずかしくはないが、はたして僕が自分好みのデザインをして売れるものなのか。そこが大問題。売れないものをつくっても在庫になるだけだ。
 というわけで、いくつかのものを友人知人関係に見せて意見を聞いた。だが、みなさん好みがばらばらすぎてあまり参考にならず、結局、僕がつくりたいようにつくる結果に(だいたいこれで失敗することになるのだが)。


 大本命は「旅行人」の復刊だ。実は、イベントの話がある前から「旅行人」を1号だけ復刊させることは決まっていたという話は前にも書いた。それ以外に、『旅日記』、「公式パンフレット」、『THE ART OF MEENA』とどしどし本をつくった。この半年間はまさに怒濤の日々だった。
 いちばん気楽だったのは「蚤の市」だ。この30年、方々から買い集めてきたお土産品を3分の2ぐらい並べた。値段をつけるたびに、小川京子から高すぎる! といわれて安くしたが、一度会場に運び込んだものをまた持ち帰るのは嫌だったので、安くても売れた方がいい。そういうわけで、かなり安くしたおかげなのか、8割ほどが売れた。




ここにあるのは売れ残ったものです(笑)
ここまでの写真は小池圭一さん





 なかでも、これはいったい誰が買うのか僕自身も見当がつかなかったのが、1999年にバングラデシュで買ったリキシャ・アートだ。リキシャの椅子の背などに貼られるビニールには様々な絵が描かれているが、それがパーツとしてリキシャ専門店で売られていた。そこで10枚ぐらい買ったのだ。
 図案も色もド派手なので、日本のご家庭に飾るとかなり異様な雰囲気を醸し出すことになる。なので、よほどの物好きでないと買う人はいないだろうと思ったが、やはりほとんど買う人はいなかった。関心を示した人が数人いて実際に買った人は2人。そのうちの1人はバングラデシュ専門の大学教授で、もう1人は僕の友人の女性で「変な物を買いました」というテーマの集まりに持ち寄るために買ったそうだ(笑)
写真◆前原利行さん



 ギャラリートーク最終回に、福岡アジア美術館のキュレーターである五十嵐里奈さんがいらっしゃった。この方はこういうものに興味があることは知っていたので、残ったものを全部プレゼントした。すると、五十嵐さんは僕に「何年にどこで買ったのですか?」と聞く。1999年にダッカのお店で買いましたと答えると、実はそれが貴重な資料になるという。
 近年、こういったリキシャ・アートはダッカで観光客向けによく売られているらしい。僕が買った絵は観光客向けではなく、リキシャ専門店で買ったものだが、それが大切なポイントだそうだ。僕が買ったものにはバングラデシュ独立戦争の生々しい絵が描かれているが、観光客向けのものには、そういったものは描かれない。だから、独立戦争の絵が、いつごろまでバングラデシュ人の関心になっていたかを示す重要な証拠物件になるのだという。
 五十嵐さんの論文にはこうある。
「リキシャ・ペインターは、独立までの苦しみと喜びを大衆に伝え、ともに祝うため、独立戦争の戦闘場面やパキスタン兵が女性に暴力を振るう場面、(中略)など、独立戦争にまつわる具体的な出来事や象徴的な人物、記念碑などを写実的に描いたのである」「リキシャ・ペインティングも壁画も、後世に残されることなく、消えていくイメージであり、(中略)現在のリキシャ・ペインティングには、独立戦争が描かれることが少ない」(政治・運動と視覚表現──循環するバングラデシュ独立戦争イメージ)
 なるほど〜。売る前に写真を撮っておけばよかった。それでもこのような方の元に絵が収まって大変よかったと思います。
 さて、それでその他の物品がどれほど売れたのかというと、めちゃくちゃ売れましたとはいかないが、まあまあといったところ(けっこう売れ残りました)。集計は終わっていないが、まあ赤字にはならない(はずだ)。引き続き、近日中に旅行人ウェブサイトで通販を開始しますので、みなさんどしどしお買い求めくださいますようお願い申し上げます。
 このイベントにご参加くださった皆様、お手伝いくださった友人たち、ご協力くださった皆様にあらためて深く感謝いたします。本当にありがとうございました。かなり大変なので、もうこういう大がかりなことはやらないと思います(笑)

写真◆小池圭一さん

ゴーゴー・インド30年のイベントを終えて(1)会場の問題

 今年の3月頃だったか、「『ゴーゴー・インド』が出てからちょうど30年になるから、なにか記念イベントを開きましょうよ」と前原利行さんに提案された。いまどき前原と聞けば民進党の党首だが、利行さんのほうは「旅行人ノート」や「地球の歩き方」などを手がけるガイドブック制作のプロで、その前は音楽番組の裏方も勤めていた経歴の持ち主だ。
 イベントをやるのはそれなりに大変なことはわかっている。単純に無料の個展をやったら会場費だけで赤字になる。なので、赤字を出さないためには、それなりの仕掛けと準備が必要になるのだ。それをやるのがけっこう大変だ。
 やりましょうやりましょうと強く誘われるうちに、それじゃやりますかという気持ちになり、まず会場を確保することから準備がスタートした。しかし、こういうイベント会場の予約は半年前だとすでに遅すぎるのが常識だそうで、なかなかこれといった会場が見つからなかった。ずるずると1か月がたち、田中真知さんに「早稲田奉仕園なんかいいんじゃない?」といわれて電話してみたところ、運よく空きがあり、ようやくあの会場が確保できた。
 ちょうど30年といったが、数えてみると31年たっていたことがあとからわかったが、まあほぼ30年ということで、タイトルを決め、トークイベントや物販というお決まりの案が並べられたが、問題はトークイベントで誰を呼ぶかということだった。トークイベントでどれだけ人を呼べるかで今回の収支が決まる。ここで客が入らないと悲惨な結果になるので、いの一番に上がったのが椎名誠さんだった。
 そりゃ椎名さんみたいな大物を呼べれば文句はない。受けてもらえるのかが大問題だ。だが、たまたま僕はそのちょっと前に、椎名さんからじきじきに電話をいただき、椎名さんのつくっている雑誌にエッセイを書いたばかりだった。まだ僕の電話にはその余韻が残っているぐらいだ。それで思い切って連絡したところ、こちらの緊張をよそに快くご承諾をいただけたというわけ。
 高野秀行さんも超売れっ子なので、引き受けていただけるか不安だったが、ご快諾をいただけてどっと安心した(高野さんは講演依頼がめちゃくちゃに多くて自分一人でマネージメントができなくなっているぐらい人気がある)。他にも何人か候補者があったのだが、優先順位というのは特になく、とにかくお願いしてみてダメだったら次の人に頼もうという突撃依頼だったので、ホールでのトークは椎名さんと高野さんに決めることができた。
 ギャラリーでのトークは事前の下見で観客数30人程度ということだった。こちらはもう仲間うちで十分大丈夫だろうということで、このイベントに協力してくれた松岡宏大さんの話を僕が個人的に聞きたかったこともあってお願いした。
 さて、ここでまた問題があった。いったい椎名さんや高野さんをお呼びすると何人の人が集まってくれるのかだ。もちろんお二人のことだから多くの人が来るだろう。だが、その「多く」というのは何人なんだ? これまで20〜30人ぐらいのトークイベントしかやったことのないわれわれには、それ以上は見当がつかないのだ。
 早稲田奉仕園でこのとき確保できる会場の最大観客数は100人。100人も人を集めたことがないからよくわからないが、椎名さんと高野さんだからこれでいいだろうと予約した。そしたら、告知後あっという間に満席になった。まだチラシも刷り上がっておらず、配るころには売り切れという事態になって、さすが二人の威力はすごいとあらためて感心した。200人の会場があれば、それも満席になっただろうになあ。ま、しゃーない。
 松岡さんと私のギャラリートークも結局満席になり、これですべての会場費+運営費がまかなえるメドがたったのでした。めでたしめでたし。



初めてつくったチケット。通常はもちろんこんなものはつくらないが、キャンセルが多いとますます参加人数が把握できないので、客にもこちらにも手間がかかるけどチケット前売り制にした。